定年を迎えた郵便局員さん

今から 15年余り前

私のお腹に 長女がいた頃のお話です。

インターホンが鳴ったので、身重の体を労わりながら そそくさと外にでると、
よく日焼けした60歳位の郵便局員さんが立っていました。

しわ深い手で、普通郵便を手渡されましたので、

なぜポストに入れないのだろう?と不思議に思いながら お礼を言いました。

すると、局員さんは 私の真ん前に 背筋を伸ばして お立ちになって

とても改まった様子で

しっかりとした声で

「〇〇先生には、中学生の時、大変お世話になりました。
 おかげ様で 仕事を勤め上げ、今日、定年を迎えることができました。
 ありがとうございました。」

と丁寧におっしゃって、深々と頭をさげられました。

わたしは、あまりに突然の出来事に驚き、言葉も 見つけられず

ただ、同じように 頭をさげていました。

お礼をおっしゃると、局員さんは そそくさと仕事に戻られました。

私は、部屋に戻ってからも 暫く 茫然としていたのを覚えています。

 

夫の祖父がこの地で 中学校教諭をしていたのは聞いていましたが、

まさか教え子の方が お礼を言いに来るなんて・・・

わたしを孫だと思われたのでしょうね。

お礼を言う様は まるで先生に対して しているようで

若かった私は、ただただ 恐縮するばかりでした。

 

夫の祖父は いったい どんな先生だったのでしょうか。

私は夫の祖父に会ったことがありません。

夫と私が出会う前に 亡くなってしまいました。

局員さんは中学生以来

およそ50年もの間 、忘れることなく

祖父に感謝の念を持ち続けていらっしゃったのですね。

その50年のあいだに

祖父は亡くなり

思い出の家は取り壊され

また、月日は経ち

新しい家が建って

別の名字に変わったというのに ・・・

よく孫だと ご存知でいらっしゃいました。

定年退職の日、本当にお礼が伝えたかった相手は

祖父だったと思います。

お墓参りに行ったとき 祖父に 改めて伝えようと思います。


 

あの出来事から15年以上たった今も

時折 思い出し、感慨深く

郵便局員さんと祖父に

想いをはせるのです。

 

 

 

 

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2017.7.27

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